豊富温泉ブログ スタッフがリレー形式で、温泉の日々をつづります。

オススメの本紹介~『ステロイドと「患者の知」-アトピー性皮膚炎のエスノグラフィー』

温泉活性化協議会

豊富町中心部にある、『豊富町定住支援センター・ふらっと☆きた』。
旧温泉中学校跡地の広い敷地を活かした、様々な機能を持つ複合施設です。
保健センター、多目的ホール、会議室、スタジオ、カラオケ室、調理室、図書室、屋内公園、小体育館などがあります。
全体に木材を多く活用していて、安らぐ雰囲気の施設です。

本が充実している図書室には、アトピー関連書籍のコーナーもあります!
2015-09-03 20.07.42

その中で、今回オススメしたいのは、以下の本!
2015-09-03 20.08.13

『ステロイドと「患者の知」-アトピー性皮膚炎のエスノグラフィー』です。

なんか難しそう~、と思われるかもしれませんが、そんな方にもぜひ読んでいただきたい!
そこで、無理を承知で、少し用語説明も交えた紹介をしてみたいと思います。

タイトルにある「エスノグラフィー(ethnography:民族誌)」とは、
「フィールドワーク(field work)」=研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びとにインタビューをしたりする社会調査活動のこと=の記録を基礎にした書物や映像などのこと。文化人類学という学問の中で、主に発展してきたものです。
文化人類学は、人類に関して総合的に研究する人類学という学問の中で、文化的側面について研究する学問分野。
著者の牛山美穂さんは、医療に関する人類学研究分野である、医療人類学の研究者です。
筆者は、日本及びイギリスのアトピー患者やそのサポート機関等にインタビュー等を行い、その記録を基に本書を著しています。
筆者の早稲田大学の紹介ページを見ると、「医療人類学の視点から、患者のノンコンプライアンスの問題を切り口として、いかによりよい医師-患者関係の構築ができるかということを研究しています。」とあります。ノンコンプライアンスとは、医療の分野で、医師の指示に患者が従わないという意味で用いる言葉。医療従事者から見れば、ノンコンプライアンスは解決すべきネガティブな問題です。
本書の中で取り上げられている、アトピー性皮膚炎の治療現場で、ステロイドの使用を医師が指示してもそれに患者が従わないといった事が、まさにノンコンプライアンスの事例となります。
しかし筆者は、自分自身もアトピー患者であり、ステロイド離脱も経験した中で、ステロイドを避ける患者の選択を、単に解決すべきネガティブな問題として社会が切り捨てる事に問題意識を持っています。

本書の帯には、以下のように書かれています。
————————————————————
ステロイドを恐れるのは、
「非科学的な行動」か?
「尊重すべき患者の選択」か?
「科学的エビエンス」「患者自身の経験」がすれ違う
アトピー性皮膚炎治療における葛藤を、日英の近代医療、
民間医療、患者団体への長期インタビューによって調査、
「患者の知」を医療のなかで生かす方途を探る。
————————————————————
この帯に書かれている言葉が、本書のテーマを端的に表しています。

「科学的エビデンス」や「患者自身の経験」「患者の知」という言葉がありますが、
ここでご紹介しておきたいのが、EBMとNBMという現代医療のテーマです。

EBMとは、Evidence Based Medicine(科学的根拠に基づく医療)。
NBMとは、Narrative Based Medicine(患者の語る物語に基づく医療)。

NBMは、患者が語る病気に至る経緯、病気について今どのように考えているかなど、患者が主観的に体験している物語(Narrative)を尊重し、その中から医師は病気の背景等を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法です。客観的・科学的な手法であるEBMとNBMは対極的ですが、相対立するものと捉えるのではなく、互いに補完するものであり、臨床現場において統合されるべきものであるということが語られるようになってきているそうです。

筆者は、こうした背景の中、アトピー性皮膚炎患者が医師の指示に従わずステロイドを避ける選択をする事を、単にEBMの観点から「非科学的」とネガティブに捉えるのではなく、NBMの観点から、尊重すべき「患者の知」として社会的に位置づけようとされているように感じました。

目次をご紹介します。
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はじめに
本書で行った調査の方法

第1章 アトピー性皮膚炎治療の問題とはなにか
1 「疾患」から「病い」へ
2 アトピー性皮膚炎とは
3 アトピー性皮膚炎をめぐる言説

第2章 患者を取り巻くさまざまなセクター
1 専門職セクター、民俗セクター、民間セクターの3セクター
2 医療的多元論と補完関係

第3章 専門職セクター─標準治療・近代医療
1 日本の標準治療のガイドライン
2 治療のゴール
3 薬物療法
4 標準治療の問題点
5 標準治療からのアトピービジネス・脱ステロイド療法に対する批判
6 イギリスにおける専門職セクター

第4章 民俗セクター─民間医療
1 アトピー性皮膚炎治療における民間医療
2 イギリスにおける民間医療

第5章 中間カテゴリー─脱ステロイド医
1 脱ステロイド医とは
2 脱ステロイドを指導するようになったきっかけ
3 脱ステロイド医の治療のゴールと説明モデル
4 治療法
5 標準治療、民間医療に対する批判

第6章 民間セクター─患者団体
1 患者団体「アトピーフリーコム」
2 認定NPO法人「アトピッ子地球の子ネットワーク」
3 イギリスの患者団体「ナショナル・エクゼマ・ソサエティー」

第7章 「患者の知」をめぐって
1 イギリスとの比較によって見えてくること
2 科学的エビデンスと患者の知
3 科学的エビデンスと個別の文脈
4 アトピー性皮膚炎から見えてくる課題

あとがき

引用文献
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続いて、「はじめに」の所から一部抜粋してご紹介します。

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本書が問いたいのは、このステロイドを嫌がる患者の態度が、社会や医療の現場で「非科学的行動」として捉えられるのか、それとも、「尊重すべき患者の選択」として捉えられるのか、という問いである。この数十年の間に、患者の捉え方は大きく変化してきている。それは、「患者の知」という考え方が注目されるようになったことが大きく影響を及ぼしている。従来、医師のもつ「専門知」が、医学の正統な知として位置づけられてきた。患者は、医師がもつこの「専門知」に基づき治療を施される必要があるため、医師は権威的な力を持ち、患者が盲目的にそれに従うという「パターナリスティック・モデル(父権主義的モデル)」が医師-患者関係の基本的なあり方だった。しかし、慢性疾患を患う患者の増加により、医学では治癒することのできない病気が次第に医療の主流を占めるようになってきた。これに伴い、専門知では治すことのできない病気を抱えた患者自身の経験が、より重要視されるようになった。ここから、患者の知を専門知とは異なる重要な知として見る視点が生まれてきた。

こうした患者の知を尊重しようとした時に、一番問題となるのが、患者の治療に対する希望と医師の治療との間に食い違いが生じる場合である。患者の希望を優先すべきか、医師の持つ専門的な知識に基づいた治療がなされるべきか、この点で患者の知という考え方はいまだ葛藤の中にある。そして、ステロイドをめぐる問題は、まさにこの葛藤を中心に抱え込んだ事例といえる。ステロイドを使いたくないという患者の意見が尊重されるべきなのか、あるいは、ステロイドは怖がらずにきちんと使うべきだという医師の指導が優先されるべきなのか。そのどちらの見解を取るかによって、前述の麻美さんの事例も、「非科学的行動」と映るかもしれないし、「尊重すべき患者の選択」として映るかもしれない。

実際のところ、ステロイドを恐れることが、科学的に正しいことなのか、そうでないのかという結論は出ていない。ステロイドを怖がる患者は、長期的に使用を続けるといつか薬が効かなくなったり、体にダメージを受けたりすることを恐れ、ステロイドの使用を中止する。ステロイドの使用を突然中止すれば、しばしばリバウンドが起こる。リバウンドがあまりにも酷く、学校や会社に行けなくなり社会から隔絶された状況に置かれてしまう人すらいる。リバウンドを数か月から数年耐えるうちに症状が軽快していく患者は多くいるが、必ずしも全員がそうなるという確証はない。一方、ステロイドを長期的に使用し続けたらどうなるかという実態についても、いまだ確固たるデータが出ているわけではない。重症のアトピー性皮膚炎患者は、20年、30年にわたってステロイドを使い続けなければならない状態に陥っているが、ステロイドの副作用についての治験や調査は、筆者の知る限り最長でも3か月半程度しか行われていない[Weitgasser and Yawalkar 1983]。患者が知りたいのは、ステロイドを数十年使い続けたら一体どうなるのかという点だが、そうした長期にわたるデータはまだ出ていない。

こうした状況下では、ステロイドを恐れることが、非合理的で誤ったことなのか、それとも合理的で正しい認識なのか、判断を下すことは難しい。しかし、あるいはだからこそ、「ステロイドは危険だ」とか「ステロイドは安全だ」という極端なメッセージが、患者の洗脳合戦のごとく行き交っている状況がある。確固としたデータやエビデンスがないからこそ、そうした強いメッセージに患者は惹かれ、安心しようとする。

本書では、こうした答えの出ない状況下で、どれだけ多様な考え方が存在して患者を取り囲んでいるかを描こうとするものである。筆者は日本とイギリスの両方で調査を行い、それぞれの文化のなかで、近代医療、民間医療、患者団体がそれぞれ異なる立場から患者を取り囲んでいる様子をみてきた。本書では、イギリスの事例と比較することで、日本における近代医療、民間医療、患者団体のあり方が、必ずしも普遍的なものではなく、ある程度日本の文化によって規定されているものであることを示したい。

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以上、少しは読んでみたい、と思ってもらえるような紹介になっていれば嬉しいです。
定住支援センターの図書室に行けば、いつでも借りることができますので、
ぜひ手にとって見てくださいね。

書いた人
高木秀一 湯の杜ぽっけ 高木

豊富温泉『湯の杜ぽっけ』スタッフ。埼玉よりアトピー湯治をきっかけに移住しました。プライベートでは、料理と道北のアウトドアを楽しんでいます^^

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